電車に乗り込んできたノラ猫がどうしても気になった雫は、父親のお弁当を届けることもそっちのけで猫を追いかけていきます。
するとその猫は、一件のお店に入っていっていってしまいます。
普通ならそこまでの出来事となるのでしょうが、妙にそのお店自体も気になった雫も中へと入っていってみることにするのです。
そうやってたどり着いたその店こそが、天沢聖司くんのおじいさんのお店「地球屋」であって、猫の人形の置物バロンと出逢う場所なのです。
何かに引き寄せられるように「地球屋」に、雫や天沢聖司くん、おじいさんにバロンは集まったような形となりました。
雫の人生が動き出した瞬間でもあったのですが、ここに絡められた意味とは何だったのでしょうか。
バロンのいきさつや、おじいさんの昔話などを深読みしつつ考えてみました。
バロンとおじいさんの恋人の名前はルイーゼ
猫の人形バロンの恋人の名前とおじいさんが心に想っている人の名前は、どちらも同じ「ルイーゼ」といいます。
まず、バロンの恋人がルイーゼという名前だと分かったのは、雫の夢に出てきたバロン自身の言葉からでした。
「私といいなずけのルイーゼは遠い異国の町に生まれた。」と話しています。
ただ、バロンのいきさつを知っているおじいさんの口からは、一度もバロンの彼女の名前は出てきていません。
しかも、バロンから聞いたとはいえそれは雫の夢の中のバロンですし、そもそも本物は人形ですから信憑性はありません。
もしかしたら、全く違う名前でしたなんてこともあり得るかもしれませんね。
それに比べて、おじいさんの心に思う女性の名前がルイーゼというのは信憑性があります。
雫ができたばかりの小説を見せるため地球屋に訪れたとき、うたた寝から目覚めたおじいさんが寝ぼけてその名前を呼びます。
雫の姿が一瞬そう見えたのか、「ルイーゼ来てくれたのか」とつぶやくのです。
ルイーゼという名前がドイツ圏の女性の名前で、おじいさんがドイツに留学していた事実と照らし合わせても裏付けられます。
でも、ひとつ不思議なことがあります。
雫が「ルイーゼ」という名前をおじいさんのこのつぶやきで耳にしたのは、夢の中のバロンが恋人の名前を言った後です。
おじいさんから聞こえた名前が印象的だったから、夢に出てきたわけではないことになります。
とすると、まんざらバロンの彼女の名前が違うとも言い切れないようです。
雫の見た夢が、予知夢、正夢、お告げなどの類の夢だったかもしれないですからね。
なぜバロンとおじいさんの恋人の名前は一緒なの?
バロンの恋人とおじいさんが心に想う人の名前の一致は、普通に言えば偶然の一致で奇遇としか言いようがありません。
雫はバロンの恋人の名前を夢で見ただけであって、おじいさんから聞いたわけではないですからね。
でも、そこで思い出したいのが、夢でバロンが言った「魔法使いの血を引く職人」という言葉です。
そうです、「魔法」です。
バロンと恋人は、魔法使いの血を引く貧しい見習い職人の手で作られたと言っていました。
そしてその職人が、バロンたちに愛する思いを込めてくれたから、バロンと恋人は気持ちを寄せ合うことができていたというのです。
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ということは、それが魔法によるものならば、雫はその魔法の領域に入ったととることもできます。
だからこそ雫はバロンが出てくる夢を見て、バロン自身や恋人とのことを知ることになったような気がしてきます。
雫は、これを夢で見たとき、書きたい物語が降ってきたと思ったかもしれません。
でも、そうではなく魔法だとしたら。
恋人の名前の他にも、雫が書いたバロンと恋人の小説とおじいさんが聞いていたバロンの話が一緒という偶然。
それから、おじいさんは想っている人を、バロンは恋人を、雫は天沢聖司くんを、「待っている」という状況が一緒という偶然。
これらについても妙に納得できてしまいます。
ちなみに、雫が地球屋を発見するきっかけとなった猫ですが、もともと原作では黒い猫だったといいます。
魔女の相棒は黒猫と魔女の掟で決まっていましたから、それとも関係があるように思えてきてしまいます。
雫はルイーゼに似てる?二人の関係は?
ここまでの状況から推測して、魔法説を想定してきました。
でももう一つ、雫はおじいさんの想い人ルイーゼの「生まれ変わり説」というのがあります。
話を少し巻き戻して、うたた寝で寝ぼけたおじいさんが雫の姿を見てルイーゼと見間違えてしまうところがありますが。
これは、単純に夢うつつのおじいさんが勘違いしたということではなく、生まれ変わりの雫はルイーゼと面影がよく似ていたからだと捉えるのです。
そう考えると、これまたすんなり納得できることがいくつかあります。
ルイーゼは、おじいさんがバロンを手に入れるときに一緒にその場にいて、バロンのいきさつも全て聞いて知っています。
そのルイーゼの生まれ変わりの雫は、忘れ去った昔の記憶が夢で蘇りバロンのいきさつと同じ物語を書いたと言えるということです。
それに雫はバロンを見て、「不思議ね。あなたのことずうっと前から知っていたような気がするの。」と言っています。
これはまさに、昔の記憶のデジャヴだとも言うことができますね。
そして、バロンの恋人の名前が一緒なのは、小説の中でその名前をルイーゼとすることで、おじいさんに自分の存在を伝えているとも言えます。
生き別れて会えないままになってしまった理由の背景にある、戦争や時代という事を考えれば、「生まれ変わり説」もなくはないと思えてきます。
まとめ
ここまで、バロンの恋人とおじいさんの想い人の名前が同じ理由を、「魔法説」と「生まれ変わり説」という観点から見てきました。
でもどちらの説であってもどこか切なくて、それでいて一途で。
んー恋してますねーと、なんだか淡くてあったかい気持ちがじわじわ〜っと湧き上がってくるようです。
名前の偶然の一致で、ここまで深読みできるなんて凄いと思いつつ。
ふと雫自身のことに思いを馳せると、雫自身も心寄せる天沢くんの留学で離れ離れになる不安を抱えていましたよね。
それに気づくと、先人のバロンやおじいさんが相手を信じ待ち続ける話から、雫も天沢くんを信じ成長していこうとしているのかなと感じたりします。
雫の人生が動き出した瞬間であって、恋もまた動き、女性として成長し始めた瞬間でもあったということですね。
恋をすれば誰でも抱えるであろう不安と信用の狭間みたいなことが見えて、これもキュンとさせられる要素です。
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