「耳をすませば」のスピンオフ作品として描かれた「猫の恩返し」。
どちらも原作は柊あおいさんで、この二つの作品にはさまざまな繋がりや共通点が隠されています。
物語の内容といえば、「耳をすませば」が中学生の雫と聖司の淡く爽やかな胸キュンラブストーリー。
一方「猫の恩返し」は、ひょんなことで猫の国に来てしまった高校生のハルが、元の世界に戻るために巻き起こす冒険ファンタジーです。
込められたテーマはというと、「耳をすませば」が思春期の迷いや葛藤のような心の底の部分を描いています。
それに対し「猫の恩返し」の方は、これまでのジブリ作品よりもっとライトな感じで、自分自身の良いところを見出すといった内容です。
こんなにタイプもテーマも違う2つの作品なのに、繋がりや共通点があるとはいったいどういうことかと不思議になりますよね。
原作者が同じというところから見ていくことで、何やら関係性が読めてきそうです。
これらの作品の共通点3つについても深掘りしつつ、紐解いていきます。
「猫の恩返し」は「耳をすませば」の雫が書いたという設定だった
ズバリ!「猫の恩返し」の物語は、「耳をすませば」で雫が初めて書いた小説の改訂版という設定です。
要は、「耳をすませば」で中学生の雫が初めての小説を書いたのですが、これがまさに「猫の恩返し」の元になった小説ということです。
でもその時は、力及ばず思うように物語を仕上げることができませんでした。
それを読んだ聖司のおじいさんは、もっと自分の芯の部分も磨いていつかちゃんとこのお話を仕上げてほしいと伝えていました。
だからこそその言葉を受け止めた雫は、まずしっかり勉強する道を選びました。
そして大人になり、豊かになった知識と経験を持って最初の小説を書き直し、完成したのが「猫の恩返し」というわけです。
裏を返せば、2つの話が繋がっていて共通点があるのは、雫が書いた物語だという設定だからです。
そして、どこか背伸びした感じのあった中学生の頃より、大人になって余裕を持って書き上げた小説なので、明るく楽しい冒険物語になったということです。
ではなぜそのような設定にしたか、原作の柊あおいさんは、「耳をすませば」と「猫の恩返し」の関係のことについて説明されていました。
それによると、「猫の恩返し」に雫や聖司が出てくることを期待されないよう、雫が書いた小説にしたということなのです。
そうすれば、「耳をすませば」の世界のものが登場してきても、雫の経験の中にあるものがモチーフになっているということになりますからね。
共通点となている、バロンやムーンこと別名ムタの登場も違和感はなくなります。
しかも雫の空気感も残せますし、あとは観ているこちらが雫や聖司の大人になった状況を想像して楽しめばいいのです。
色々含めても、「猫の恩返し」を雫が書いた小説としたのは名案だったというわけです。
「耳をすませば」と「猫の恩返し」の類似点①バロンの登場
2つの作品の共通していることの一つ目として、バロンの存在があります。
「耳をすませば」では猫男爵の人形として登場していますね。
雫が、この人形と偶然出会ったことが全ての始まりとなるわけですが。
もし出会っていなかったら、バロンからインスピレーションを得た「猫の恩返し」という物語も生まれなかったということになってしまいますね。
そんなバロンは、聖司のおじいさんが地球屋に大切に飾ってくれています。
どこか不思議な魅力に惹きつけられる人形でもあり、おじいさんにとっては思い入れのある宝物です。
雫もその雰囲気に惹きつけられたのか、初めて地球屋を訪れたときから気になって夢にまで出てきたりしていました。
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おそらく、そんな大切なものだからこそ「猫の恩返し」では、主人公ハルの力になってくれる猫の探偵としてバロンは登場するのかもしれませんね。
しかも、探偵事務所の場所は地球屋です。
雫にとって憩いの場であって自分の居場所であった地球屋は、ハルの味方がいる場所で安全な場所という形で出てきたというわけです。
当時の雫にとってこの頃の経験は、その後の人生にも影響するような大きな出来事だったことが伝わってきます。
「耳をすませば」と「猫の恩返し」の類似点②ムタの登場
雫があの時期に刺激をもらうような出会いができたのは、突然現れたノラ猫ムーンのおかげです。
なのでそんな大切な存在を放っておくわけもなく、「猫の恩返し」でもしっかり登場させています。
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しかもここでも、主人公ハルと探偵バロンを引き合わせる重要な役割を担っているのです。
探偵バロンとは仲間で、いつも商店街をウロウロしているようですが、そんなところはムーンと似ていますね。
またムタというのは呼び名で、本名がルナルド・ムーンというのです。
これは、雫や聖司はムーンと呼んでいましたが、出没する場所によっては他にムタやお玉と呼ばれていたところに着想しているようですね。
また、ムーンは、愛嬌があるのかないのかしれっとした表情で人に媚びたりしませんが、落ち込む雫の側に寄り添うなど人の気持ちがわかる猫でした。
実はそんなところもしっかりムタには引き継がれていて、口は悪いけど面倒見の良いヤツという設定になっています。
そうなると、逆にムタのようにムーンも喋れたらこんな風かな、なんて想像してみるのも面白い見方かもしれませんよね。
「耳をすませば」と「猫の恩返し」の類似点③雫の声優
一旦物語の世界観から離れて、声優さんの配役においてもこの二つの作品には面白い共通点があります。
実は、「耳をすませば」で雫の声を担当した本名陽子さんは、「猫の恩返し」では主人公ハルの友人のチカの声を担当しているのです。
しかも、たくさん出てくる役どころではなく、ハルが大量の猫たちに追われながら登校するときに出てくるといった程度です。
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観ている側からすると、そこら辺のあんばいも含めて、猫の恩返しの中でほのかに雫を感じるという素敵な演出に思えます。
ジブリもそれを狙ってのものだったのかもしれませんが、本名陽子さん自体ジブリ作品は「猫の恩返し」で3度目の起用でした。
4歳から子役として活躍されていた本名さんは、中学1年のときジブリの「おもひでぽろぽろ」で主人公の少女期を担当しました。
これが、声優としてのデビュー作であり、ジブリの初起用となったわけです。
https://torenndo-net.blog.ss-blog.jp/2014-07-31
そして、後にユニットを結成するほど音楽センスにも優れている本名さん。
2度目のジブリ作品となる「耳をすませば」は、雫がカントリーロードを歌うことも含めての適役だったといえます。
証拠に、「古郷へ帰りたい」という日本語タイトルをつけた本名さんの歌声はシングル発売され、オリコン最高22位となっています。
そんな本名さんですから、「猫の恩返し」への配役もジブリとしては自然な流れだったのかもしれませんね。
まとめ
「猫の恩返し」は「耳をすませば」のスピンオフとして作成され、劇中劇のように見える形で雫が書いた物語というユニークな設定となっています。
これは、本来スピンオフや続編を作らないジブリにとって異例であり、2つの作品に繋がりを持たせながらもそれぞれ独自の魅力も持たせるという、異例の試みでもあったわけです。
https://ciatr.jp/topics/233456
そんな「猫の恩返し」は、宮崎駿監督や高畑勲監督ではなく森田宏幸さんが監督を務め、脚本をはじめ他スタッフもジブリ所属ではない人を多く起用して作られました。
これもまた、異例中の異例と言えるものでしたが、当時、宮崎駿監督たちはすでに次の作品に取り掛かっていて関われなかったためのようです。
でも逆に、新しい面々でのチャレンジも、異例づくめのこの作品においては良かったのではと思えます。
ジブリが描いた世界観というよりも、雫が書いた世界観という感じがより伝わってくるような気がしますしね。
そんな風に考えを広げると、バロンのヒーロー的役どころは、雫の聖司に対する価値観なのかなと想像が膨らんできます。
つまり、中学時代の迷いの中に居た雫が、そこから抜け出す明るく目標となった光、ヒーローが聖司だったと思えてくるということです。
となると、聖司と雫は出演していないけれど、二人の想いを感じることができる物語になっているようで、淡い気持ちがふっと湧いてきます。
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