映画のオープニングは、雫の住んでいる街の風景と団地の描写から始まりますよね。
この街に住む人のお話だよって感じで意外と好きな演出ですが。
雫が暮らすこの団地というスタイル、今でこそだいぶ減りましたが昔はよく見受けられたものです。
大体地上4〜5階建てくらいで、外壁の色は白とかクリーム色が多く、住居と住居の間に階段があって、玄関の踊り場からは外が見える造りになっています。
これぞザ集合団地というもので、少し懐かしくも感じるものです。
ところが、原作の雫のお家は、そんな懐かしい団地ではなく立派な一軒家住まいをしていると判明しました。
原作と映画ではだいぶ設定が違うなと調べていくと、家族の職業や収入、時代背景などが絡んでいることが見えてきました。
そこで、そういった月島家のお財布事情を垣間見つつ、家の設定が変更された理由にも迫ってみます。
雫の家族の職業と収入は?
月島家は、雫の父・靖也の収入がほぼそのまま家計の収入源です。
他の家族を見てみると、雫が中学生で姉の汐は大学生、子育てがひと段落した母の朝子は社会人学生として大学院に通う院生です。
父の靖也以外に就業している人はいなくて、月島家は学生さん一家ということになります。
単純に見て、これだけの学生を父親一人で養っていくのは大変そうだななんて思ってしまいます。
ただ、この中で姉の汐だけはバイトをしているので、しっかり者なだけにもしかして家計の手助けとして働いてるのかもと想像しちゃいます。
とはいえまだ大学一年生ですし、後に独り暮らしをスタートさせることも考えるとその可能性は低いですね。
しかも母の朝子が、いくら自分の突き詰めたい道があるとはいえ、子どもを働かせてまで学生になるとは思えませんもの。
それなりの家計の余裕があって、家族の理解と協力も得られたと考えるほうがしっくりきます。
では、そんな月島家の大黒柱である父・靖也の職業は何かというと、市立図書館の司書という公務員をしています。
でも、本当にやりたい仕事は郷土史の研究で、本人いわくあくまでこちらの方が本業だということです。
ただ、その仕事では一文にもならないようで、家族を養うことなど到底できません。
それに比べて公務員なら、よっぽどなことがない限り失業や減給なども考えにくく、安定感もありそれなりの給与も期待できるイメージです。
保証や保険もしっかりしているので、家族4人の生活を考えればそういった仕事に就くことは大事になります。
給料の金額だけを考えれば、この物語の時代である1990年前後はサラリーマンのお給料の方が高額という時代でした。
でも4人の生活のためには、ローリターンでも安定した公務員の職を選んだと言えるかもしれません。
派手で豪華な生活はできないけれど、中流くらいの生活を維持できるほどの収入はあったと見受けられます。
雫の家は団地で間取りも狭い?
そんな月島家が住んでいるのは集合住宅が連なるいわゆる団地で、昭和の頃にはよく見受けられた形の住まいです。
冒頭でも触れた通り、4、5階建てで玄関先の踊り場から外が見える造りとなっています。
そういった建物のタイプや月島家の家計具合から総合的に考えて、公務員宿舎とか市営団地のような賃料の負担が少ない住居ではないかと思われます。
間取りはというと、映像から図面を起こしてみると、こういったタイプの団地ではよくあった2LDKとなるようです。
おそらく部屋は、親の部屋と子供部屋とリビングというような振り分けとなるかと思われますね。
子どもたちの成長を考えれば、4人家族には手狭な間取りであることは間違いありません。
https://www.homes.co.jp/cont/living/living_00321/
実際、雫はお姉さんと一緒の部屋であるため真ん中に二段ベットを置いて区切り、それぞれの空間が保てるように工夫していました。
しかも、そもそもがさほど広くはない部屋を区切っているので、自分の空間といえば1〜2畳ほどです。
また、みんなの集まるリビングも、家の収納場所が少ないせいか、整頓はされているけど割と物でごちゃごちゃしてる印象ですよね。
しまいきれない物が、段ボールに入って廊下に置かれているのが見受けられます。
微妙に、そんなところからも昭和を感じてしまうのですが。
とにもかくにも、家族4人肩寄せあってといった雰囲気が見て取れます。
でも、そのことは月島家にとってマイナス要素ではなかったように感じます。
子育てをするときに、目がいき届きコミュニケーションもしっかりとれる丁度良い距離感というのでしょうか。
それが保たれる空間、家の間取りがこの団地の家だったように思えます。
また姉の汐もそうするように、いつか雫も親の元を離れれば、晩年の親が二人で住むにはむしろ十分な間取りとなっていくのでしょうね。
「耳をすませば」原作では一軒家住まいの設定だった
手狭だけど家族の暖か味ある団地住まいの月島家ですが、原作では一軒家住まいの設定です。
敷地も広く、石垣を2〜3段上がるような少し小高い場所に建っています。
二階建てと思われるちょっとロッジ風の小洒落た一軒家で、各部屋も広く部屋数も多そうです。
部屋の仕切りだってふすまではなくドアですし、それぞれの部屋の窓も大きく太陽の光がたくさん入ってくるような造りになっています。
そんな洋風の素敵なお家に描かれている原作の月島家は、ジブリ映画の月島家よりもずっと優雅な暮らしぶりのように感じますよね。
もちろん、子ども部屋も一人一部屋あるようで、雰囲気としては屋根裏部屋のような片側の天井が少し斜めに下がっているタイプの造りです。
女の子が、こんなお家いいなあ、こんなお部屋憧れるなあと思う感じがここにはたくさん詰まっています。
現実的な話し当時の一軒家の造りといえば、その多くが純日本とでも言うかとても雑多なものでした。
なので、こんな洋風でお洒落な家などは、マンガやドラマの中だけだと割り切ってもいたように思います。
それでも、現実的なリアリティよりも、キラキラした生活や起こりもしないような運命的な出会いなどに憧れる時代だったのです。
そんな風潮と、原作が当時の女の子マンガ雑誌「リボン」だったことを思えば、このような家の設定もあるあるだと納得がいきます。
なぜ雫の家の設定を団地に変えたのか?
月島家は、原作では素敵な一軒家だったのに、ジブリの映画では団地住まいに大きく変更しています。
その理由は、やはりジブリ特有のリアリティの追求にあります。
女の子が憧れるようなキラキラした生活は、素敵だけど現実と大きく離れていて、物語や作り物といった枠を出ることはできません。
ジブリが求めるリアリティは、もっと生活感に溢れていて自分に近く現実的にあり得る設定です。
そう考えたとき、月島家はキレイな一軒家ではなく、団地住まいに変更した方が辻つまが合うと思えるのです。
そのポイントは、ひとつ目は父親の職業、二つ目には母親の状況、三つ目に時代といったことです。
まず父親の職業については、図書館の司書という公務員の仕事です。
その職業から想定する収入金額での家族4人の生活というと、決して派手なものではないとイメージしますよね。
しかも母親については、社会人学生として大学院に通っているという状況にあります。
子ども二人の学費に加え、社会人学生とはいえそれなりの費用が必要とあれば、出費も少なくないものと想像します。
更に加えて時代背景としても、バブル期でサラリーマンの方がお給料を稼げていた時代でした。
これら3つのポイントを兼ね合せると、広い一軒家の優雅な生活では現実的な金銭感覚とズレが生じてしまいます。
それよりも、団地住まいで住居への家計の負担を抑えながら、4人で肩寄せあって生きている感じの方が腑に落ちます。
まとめ
ごく普通の庶民的な父親が、一家の大黒柱として子ども二人を養っている暮らしぶりというのを、月島家として忠実に表現しているように思えます。
ちょうどこの時代は核家族化が進み、結婚して家族を持つと親の家を出て新たな住居で暮らすスタイルが広まってきた頃でした。
一軒家を購入することはまだ金銭的に難しい若い夫婦は、団地やマンションといった集合住宅を選んで暮らしていたように思います。
原作版のようなロッジ風の素敵な一軒家を持てたらと憧れはあっても、実際にはジブリで描いたような団地住まいというのが現実。
「夢のマイホーム」などという言葉もよく飛び交っていた頃でしたが、月島家も例に漏れずといった設定のようです。
そしてもう一つ、母親が原作では専業主婦であったのに対して、ジブリ映画では大学院生に変更されています。
ちょうどこの時代から女性の社会進出も進み、共働きなどで両親が家におらず子どもだけで留守番という家が増えた頃でした。
そういった部分も、現実にそって設定されていることが分かりますね。
ただ、雫の母親は仕事ではなく勉強であったことがポイントで、なんとかでも父親の稼ぎで全てをやりくりできるほどの収入があったと解釈できます。
多くの余裕はないにしても、自分のやりたいことと向き合うことができるくらいのゆとりはあったと言えるのではないでしょうか。
そんな、家族でしっかり生きている感じが伝わってくる月島家の設定は、観ている側にもスッと入ってくるもののようです。
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